それは暑い暑い日のこと

2/11
前へ
/11ページ
次へ
 それは夏のとてつもなく暑い日のことだった。  気温にして39度。  バイクに乗ればアスファルトの照り返りのせいでハンバーグになりそうになる。  かと言って、徒歩で街を巡れば熱風となった風に煽られて、ドライヤーを当てられた髪の毛の気持ちの追体験をさせられる始末。  あっちこっちで熱中症になった人たちが救急搬送されて、ここ十年最悪の『白昼の悪夢』だなんて言われていた矢先のことだった。 「ううっ、寒っ」  身震いをしながらも今期の試験を全て終えた俺、三瓶 小太郎は大学に少し近い喫茶店にいた。  小洒落ながらも落ち着きやすいログハウスを意識した場所で学生の憩いの場なのだ。  学生達のなかでも何故か特に人数の多い文学部の連中がよく利用している。俺たちもその一人だ。  駄弁ったり課題に奮闘したりしてることが多いけど、今日は珍しく文学部の連中はいない。  人混みが嫌いな俺としてはラッキーだ。 (しかし、ホントここってサイコーだよな)  ここを憩いの場にする理由はその室温だ。  恐らく20度くらいで、もはや寒いと言っても過言じゃないくらいの温度に設定されている。  口では寒いと言うものの、外が外だけに出ようとは思わない。  夏は寒く冬は暑いこの場所に住みたい。とさえ言える。  家の冷房はこの壮絶な暑さに殺られて天に召された今、いくら冷暖房大好きな俺でも彼、もしくは彼女と心中するつもりは無い。  逝くなら一人で逝けってんだ。  でも、こんな楽園でも不満があるやつはいるようだ。 「しかし、こういうひと息つく施設っていうのはどうしてこうもバカみたいに温度を下げるのかね」  俺の眼前でパフェの欠片を乗せたスプーン片手に金髪でいかにもキザな雰囲気を醸し出している男がいた。  大学の友人、鴻巣 文教(こうのす ふみのり)だ。  同じ専攻で取った教科の選択肢がバカみたいに少なかったせいか、同じゼミで何度か同じ授業を受けてきた結果、大学ではもっとも仲の良い友達として俺は認定している。  そして、なにより奴もまたこの熱原において冷房(とも)を失った同志だ。 「お暑いのがお好き?」 「そんな訳ないだろバカめ」  じゃあなんで文句言ってんだよ。こいつ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加