2. 三回忌

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 そう言った後、俺はまた無言で窓の外を眺め続け、もう誰も愛したくないと思うと、涙が幾つか流れた。サチは無言のままギターの横に座っていた。  お寺の売店で線香を買い、手桶と柄杓を借りた。  アキの墓石には、新しい花が既に供えられている。多分アキの両親が仕事前に立ち寄ったのだろう。俺は、ゆっくりと水をかけてから、コーヒーとアキの好きなキャラメルを供えて、線香に火を点け、煙をたてた後、それを挿して、膝間付いた。  「ただいま、アキ。折角、アキが今日ちゃんと逢わせてくれたけど、やっぱり、無理や、、、もうええから、俺、大丈夫やから、ゆっくり休んで。俺、高校出たら、外国に行くわ。ここじゃ、窮屈やし、生きられへんみたいやから。」とアキに話しかけた後、立ち上がって肩掛け鞄から、ウィスキーの小瓶を取り出し、一口それを飲んで、煙草に火を点ける。  アキの前では、涙を見せないと誓った事は無駄だった。  俺の横でしゃがんでいたサチも立ち上がり、いきなり俺の肩に顔をうずめて、 「先輩が泣いたら、私も泣いちゃうけん、泣かんで。」と震えた声で言う。  サチを抱きしめたいと思い、煙草を落として彼女の肩に手を掛けたが、そっと押して身体を離し、 「サチは、、、」と言って、冷たいベンチに座り、また鞄からウィスキーの小瓶を取り出した。  「先輩、それ少し飲んでもよか?」と聞くサチに、一口飲んだ後その小瓶を手渡すと、苦そうな顔をしながら、ゴクゴクと飲むと、じっと俺を見詰めて、  「りょう先輩、私は、、、お姉ちゃんの代わりには成れんと?」と聞く。  俺は、彼女から小瓶を取り、それを飲み干して、また煙草に火を点けた。クローブの甘い香が広がっていく。返事をせずにアキの墓石を見ている俺に、    「気にせんで、無理なのはわかっとうと。でも、ちゃんと聞いておきたかっただけやけん。」と言って立ち上がり、二ッコリと笑い、  「お姉ちゃん、心配せんで、りょう先輩は取らんけん。お姉ちゃんの人やけん。」  それがサチの最後の言葉だった。
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