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「車長、こっからどうするんすか?」
砲手の気だるそうな男、小林が問う。
相手は10輌、こちらも10輌の戦いだったはずだが、今では7対1の戦況だ。
しかも、相手にはティーガー系統を初めとした強力な重戦車で構成されている。
その巨砲で撃たれれば非常に、痛い。
しかし彼らの装甲は、ヘッツァーの主砲ではほとんどノックに等しい。
この状況で、車長亀崎はどのような指示を下すのか。
「……吶喊せよ!!玉砕せよ!!我らの墓はここだァッ!!」
「あ、そっすか」
「いや、小林さん止めてよ!!」
岡村が慌てふためくが、亀崎も小林も気にしていない。
「アハハハハッ!!オラオラ行くぞおおおッ!!」
頭のネジが全部まとめて吹き飛んだかのように笑う山岡は、何も考えずに前進する。
速度は30キロから40キロと行った所か。
そんな速度で前進していれば、遮蔽物のない平原ではすぐに見つかってしまう。
事実、重戦車の砲弾の雨をなんとか掻い潜っているのが現状だ。
「車長。前方に敵っす」
「殺せ!!」
「ういっす」
小林は指示通りに砲撃を開始する。
しかし、ティーガーの正面装甲は厚い。
もし擬人化したら、面の皮だけで銃弾でも受け止められるほどに面の皮が厚い人間になるだろう。
案の定、ドアのノック程度の効果しかない。
「装填急げ!!」
「やってますよ!」
岡村の装填は実際、素早い。
一般的な装填手よりもずっとはやい。
しかし、撃ち所を見極めない小林が砲手では、せっかくの装填が無意味である。
突如、車体を砲弾が貫通する。
面の皮は重戦車に負けないほどに厚いヘッツァーだが、側面と背面はまさに紙っぺらなのだ。
「エンジンがごぶっ飛びあそばされたみたいっすね」
「そうか!死ぬにはいい日だな貴様ら!!」
「何の戦果も挙げられずに死ぬのかぼくは……」
悔しげなのは岡村唯一人で、亀崎はガハハと笑い、小林はスマホでゲームを始めている。
一番常軌を逸しているのは山岡で、山岡は日本刀を手にしていた。
外国人観光客用の模造刀のはずなのだが。
「山岡、いっきまーす!」
山岡は外へと飛び出し、敵戦車へと向かう。
しかし周囲の戦車の主砲が一斉に山岡に放たれた。
「ほぎゃああああああああああああっ!!!」
山岡は死んだ。
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