生はまこと崩落に尽きる

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  かり、と 桃さまの白い歯が 私のネイルの先っぽを 噛んだ。 痛みよりも、 じんわりと熱を帯びた電気が 血液といっしょに 体中を巡ってから 私の意識に届く。 いっそそのまま 噛み切ってしまってもいいですよ、 と言いたかったけれど、 絞められた喉から 漏れるものなどない。 被虐趣味なんかじゃない。 私が持っているものを差し出して 彼のなにかが癒されたり 満たされたりするのなら、 惜しむ理由なんてないと 心から思っただけだ。 渇いたままの自分の心身が 傷だらけになっていくことさえ 気づけずに、 粗末に生きてきた私でも こんな心境になれる。 白濁していく意識の中、 そんなところまで私を 導いてくれた 瑞島桃也というこの男に、 感謝の念さえ抱いていた。 .
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