平行線。

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 申し訳なさそうに自分の席に移動する優衣。  教科書だけも持って行ってあげれば良かったなと後悔した。  「怪我をして早く動けないのなら、時間に余裕を持って行動しなさい」  配慮のない言葉を発する化学の先生。  「…すみません」  優衣が、松葉杖をぎゅうっと握り締めた。  優衣は、『自分は怪我をしているのだから遅れても仕方がない』なんて開き直る様な性格ではない。  精一杯急いで遅れたんだろうに。  先生の態度が、癇に障る。  「じゃあ、優衣は怪我をしているからトイレに行くのを我慢して、ここで漏らせば良かったんですかね? それとも、トイレに行かなくて済む様に水分取るなって事ですか?」  先生に盾を突く様に睨むと、優衣が慌てた様子で俺の方を見て『いいから、大丈夫だから』と口パクをした。  良くないよ。全然良くないよ、優衣。  だって、甘えて良いのは怪我人と病人の特権なんでしょ。
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