イノセントワァルド

#001 終わりのはじまり

今日は午前中に雨が降っていた。
雨の後の麦畑はとてもいい香りがするので、私はそれが好きだった。

その清々しい香りは、私の頭をほんの少し現実から引き離してくれる。

これから、また起こるだろう嫌な事なんて嘘みたいに思えてくるから少し、気が楽。

私は半年前まで保険会社で事務をしていた。
営業補佐だった。
PCを触って同じ作業をコツコツするのは嫌いではなかったけれど、電話口で意味の判らない罵声を浴びせられるのには困った。

どんなに丁寧に対応しても、いつも同じ人から電話がかかってくる。

業務開始から終了までの9時間、その半分以上がクレーマーからの長電話。
受話器を置くことも許されず、数年間怒鳴られ続けて何度も胃に穴が開いた。

短大を卒業してすぐ就職、それから数年ずっと頑張ってきたんだけどな…

ついにドクターストップで離職することになってしまった。