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「それは知ってる、今の仕事や、ちゃんとごはん食べたり出来てるか」
仕事のことは弟にしか話していない、あのお喋りめ。
「大丈夫や、三年も生きてきてん、もう一人でも生きていける」
「そうか、でも疲れたら、こうしてたまには帰ってきたらええねんで」
どうして、そんな風に言えるのか、私は家を捨てたと行っても過言ではない。親の忠告も聞かずただ好き勝手に出ていった。
「どう思てんの、だから反対したのにって思てへんの」
私の口調は少しずつ強くなる、またバカをしている。蔑んでほしいのか、今の自分を否定してほしいのか、そうすることで自分は不幸な人間なんだと思いたいのか。
「反対なんかしてへんよ」
「したやんか、だから喧嘩になったんやろ」
「あんたがやろうとしてた仕事は難しい仕事やったんやろ、そやからあんたが途中で投げ出さへんか、あんたの決意が見たかったんや」
都合のいい変換、どちらにしても私は途中で投げ出した。私の決意はそんなもの、母の言った言葉に私は勝てなかった。
「でもええやん、夢が叶わんかっても、生きてんねんから」
母は料理をする手を止めコロッケの入ったお皿をリビングのテーブルに運んだ。
「コロッケ食べるか、昔はあんたと雄大(ユウダイ)で取り合ってたのになぁ、最近は雄大も友達と食べに行ってばっかりで食べてくれよらへん」
そういう割りには昔よりも作る量が多い、私が減って、弟も食べる量が減ったならこんなにも作る必要はない。私が帰ることもまた、きっと弟から聞いていたに違いない。
私はまた一つ、お皿に乗ったコロッケを手に取った。
「雄大、食べてたよ 私と雄大がお母さんのコロッケ食べへんわけないやん」
「そうか」
母はまた料理に着手し始める。
「なぁ私帰ってきた方がええんかな、もう東京に未練ない」
「あんたがそおしたかったら、そおしたらええ、けど逃げたくてゆうてるんやったらあかん。
やりたかった仕事やなくてもせっかく雇てもろてんのやろ、ちゃんと恩義返さなあかん」
母らしい、理屈だ。
「じゃあもう少しだけやってみる、それで、もしあかんかったら、こっちで仕事探す、その時はまたこの家に住んでもええ?」
「ここはあんたの家や、いつでも帰ってきたらええ、いつでも『おかえり』ゆうたるさかい」
私は母お手製のコロッケを頬張る
「おいしい」
完
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