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ピーンポーンピーンポーンピーンポーン
「うるせーよ!」
ドアをいきよいよく開けたら思ったとおりこいつだった。
「り、りつ・・・」
そいつの目には涙がたまっていた。
声も震えている。
「とにかく入れ」
俺は、コーヒーとアイスココアを用意してテーブルにおく。
いつものことだ。
そいつはおとなしく、前に出されたアイスココアを口にする。
アイスココアを用意するのは習慣で、8年前からこいつはアイスココアを飲みつづけている。
そろそろ飽きないのかなと思う。
「で、どーした?」
まぁこいつがいうことは想像がつく。
「りつ~、また落ちた」
思ったとおりだ。
こいつは教師になりたくて大学にいき、無事卒業した。
だけど免許をとっても年に2回の教員採用試験に受からなければ、先生として働くことができない。
かれこれ2回は落ちている。
いや今回ので3回か。
「まぁそんな落ち込むなよ。
今年はもう1回チャンスがあるんだろ?ならまだ諦めるのは早いって。
ほらなんか作ってやるから、なにが食べたい」
「オムライス」
「はいはい」
なにかあったらうちへくるのも、その度に慰めるのも、元気を出させるためにオムライスを作るのも日常になっている。
本当にこの男、佐伯洸(さえきこう)というやつは変わらない。
「りつはいいよね、料理人という夢を叶えたんだから。」
そう、俺、豊永梨月(とよながりつき)は高校卒業後、料理人になるべく専門学校に入り、無事卒業し、就職先も決まり働いている。
「お前もあと少しだろ。頑張れよ。佐伯先生」
「うん、ありがとう、りつ。
うわぁ美味しいそう、いただきます。」
こいつは本当に切替が早い。
さっきまであんなに落ち込んでたのに今では嬉しそうにオムライスをたべている。
そんなに先生と呼ばれるのが嬉しいのか。
まぁでも落ち込むより笑顔なほうがいい。
これも惚れた弱みというやつか。
俺は今日も苦笑いをする。
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