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氷のような冷たさの手が、俺の足首を掴む。それが死神の手だと理解するのに、一瞬も要さなかっ た。
戦友は諦めるなと言ったが、待ち構える運命はもはや分かっていた。
冷たい手は、脹脛から膝を経て、そして太ももを伝う。
「家族が故郷で待ってるんだろ」
そう耳元で叫んだ戦友の声もどこか遠い。
震えてうまく動かない口で伝える。
お前は、生きろよ。
冷たい手は腹を撫で上げて、そして、胸で止まった。
初めて恋人と繋いだ手のような優しさで、死神は俺の心臓を掴んでくれる。
脈動がゆっくり消えていく。
そこに恐れは無かった。
手の冷たい人は優しいらしいぜ。
暗闇に落ちていく意識の中で、誰かが言ってたその言葉が真実だと、俺は知った。
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