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彼女がここから逃げ出さない理由は、この国の古いしきたりに対する使命感だけではない。
これはチャンスなのである。
この慣習には続きがあり、カエルにキスをした娘が未来の王妃となる。
つまり、この国の皇太子の花嫁になれるのだ。
お伽噺の女は、王子の花嫁になるためにかかとを切り落とした。
それが、カエルとのキスならば、安いものだ。
そう思ってこの場に座ることを決心した。
しかし、いざ目の当たりにすると、身がすくんだ。
あんな気味の悪い臭い生き物に唇をくれてやるくらいなら、町で肉屋の下働きをしている若者の方が数倍もマシだ。
しかし、この話には家族の期待もある。
何人かの候補が挫折したお陰で、やっと訪れたチャンスだ。
挫折した娘たちの惨めな余生を思うと逃げ道などなくて当然なのである。
陰に居座るカエルを目尻に捉えながら、彼女は浮いてしまいそうになる尻を押さえ付けていた。
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