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それは既に小説としての体裁を失っていた。
エリシアの台詞は、かぎかっこで閉じられることなく独白へと続いていたし、小さくも綺麗な字は乱れていた。
もしかしたら、苦しかったのかもしれない。
病魔に蝕まれるエリシアの身体は悲鳴を上げていたのかもしれない。
落ちた涙は字を滲ませていた。
大人になる前に治る。
その医者の言葉を彼女はどこまで信じていたのか。
彼女はもしかしたら悟っていたのかもしれない。
初めから、小説を書こうと決めたときから。
僕は震える手でページをめくった。
それは最後のページだった。
彼女が書いた小説はノート15冊と半分。
僕が読んでいるのは16冊目。
ノートは半分しか使われていないし、物語だってまだ中盤だ。
それでもエリシアの人生はもう終盤だった。
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