旅人の物語

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――――  僕はページをめくる。  エリシアの小さいけど丁寧な字はとても読み易く、誤字脱字も見当たらない。  彼女にはかなりの文才があるようだ。  次のお話は、盗賊から逃げる話だ。  その村の住民はなんと全員が盗賊だった。  村ぐるみで疲れを癒しに来た旅人から金品を奪い取るのだ。  危うく殺されかけた。  本当にあれは危なかったなあ。 『私とレンの呼気は荒い。特に私の肺は息を吸い込む度きりきりと痛んだ。 「私……運動不足……だったから」 「それは闘病生活をしていたんだから当たり前だよ」 レンはこんな状況でも優しく私を慰めてくれる。 でも、そんな余裕のある状況ではないのだ。 「早く逃げないと……っ痛!」 どうやら私は走って逃げている途中で足を捻ってしまっていたらしい。 「逃がすなーっ! あいつらにこの村の秘密を喋られたら困る!」 「捜せっ! こっちが怪しいぞ!」 村人達が森を掻き分け、だんだんとこっちに迫ってくる。 松明がたかれ、手に手に武器を持っている村人という皮を被った盗賊達。 「まずいね……もう見付かってしまう。エリシア、僕の背中に……」 「レン……私はここで隠れてるからあなただけでも……!」 「そんなことすると思うかい? 君を置いていったら罪悪感で僕は夜も寝れないよ。ほら、早く」 私はこんなときですら、レンに対する愛しさを感じた。 それと同時にレンからの愛情もその身に感じる。 私は痛む足を何とか奮い立たせ、レンの背中に跨がった。 彼の身体は火照っていて、私は彼の体温を感じ、生きている、と思った。 同時に“生きたい”とも。 「さあ、盗賊なんかにやられるわけにはいかないからね。旅人として末代までの恥だ。……走るよ!」 「うん」 私を乗せ、レンは走った。 旅人にしては細身なレン。私を背負って走るのはきっと辛い。 ガサガサと地面に落ちた葉が足音を助長し、遂に盗賊が私達に気付いた。 「あっちだ!」 叫び声を上げる盗賊達。 「うわ、まずい」 レンは冷静な口調だけど長年の付き合いの私には彼が焦っていることが分かった。』
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