旅人の物語

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――――  僕はぱたりと彼女の書いた小説を閉じた。  でも、指は今まで読んでいたページに挟んだままだ。  何だかとても恥ずかしい。  自分が小説に書かれるなんて思いもしなかった。  彼女はずっと、ノンフィクションがいい、現実主義だって言い続けていたんだもの。  だから僕は苦労して記憶の底から旅の様子を引き出していたんだ。  これじゃあ全くのフィクションだ。 「……確かにこれは見せられないよな」  エリシアが僕に小説を触らせなかったのも頷ける。  今じゃなきゃ、お互い恥ずかしくって、きっと読めなかった。  僕は再び小説を開く。  相変わらず綺麗な文字が並ぶ。  小説も中盤に差し掛かっていた。  このときからかな、エリシアの文章の中にとある願いが書かれ始めたのは。
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