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――――
『レンは背負った私ごと草原に倒れ込んだ。
私達は草原に転がった。
「はあっ、はあっ! ようやく振り切った……! もう動けない」
「助かった……」
魔物に襲われるほどの恐怖から逃げ切った私達は、夜の草原で雲から覗く月を見上げていた。
「ごめんね。苦労させて」
レンの上がっていた息はだんだんと普段のリズムに戻っていく。
「いいんだよ」
レンは言った。
涼しい風が火照って汗に塗れた私達の身体から熱を奪っていく。
優しい月光は穏やかな夜を演出するのに丁度いい。
「生きてる……」
私は月を見上げながら呟いた。
先程まで感じていた命の危機。
それから脱した私の中には妙な達成感と生きている心地というものが溢れていた。
「そうだね」
レンも私の言葉に相槌を打ってくれる。』
僕はページをめくる。
そこは少し他のページと違っていた。
字が少しだけ歪んでいたのだ。
……眠かったのかな?
エリシアは夜も小説を書いていたそうだ。
こっくりこっくりしながら書いていたのかもしれない。
いや……違うか。
これは字が震えているんだ。
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