君の脚は少し動く

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「見てて下さい!」  泰生はそう言うとおもむろにスカートをたくし上げた。パンツが見える訳ではないが、細く白い脚が太ももの上の方まで露わになっている。 「私の脚、少しだけ動くんです!」  泰生は脚に……と言うか全身顔まで真っ赤にして力を入れていた。俺は恥ずかしながら脚を真っ直ぐに見る。  皮下脂肪はいくらか付いていて、筋肉はマッサージか電気刺激で最低限を維持している感じ。とても健康的とは言いがたく、機能美なんて以ての外。つまり、俺の価値観から言わせてみればお世辞にも綺麗とは言えない。  そんな脚が今、車椅子の上でプルプルと震えるように動いていた。 「ぷはーー! どうですか? ちゃんと動いたでしょ?」 「ちゃんとって表現にはそぐわないけど、確かに動きはしたな」 「ホントは歩けるようになれば良いんですけどね。私の障碍は生まれつきの脊椎の奇形で脚に繋がる運動神経だけまともに機能してない状態なんです。だから感覚はあるんですよね」  泰生はおもむろに俺の右手を取ると自分の脚に触れさせた。すべすべてきめ細かく瑞々しい脚に。俺は突然の事にちょっとしたパニック状態。指先まで硬くなってしまった。 「こうしていると、芦屋くんの手の温もりも硬さも分かるんです。その分、自由に動かないことがもどかしいんですけどね」  そこまで言うと俺の手を離した。俺も反射的に泰生の脚から手をのける。 「六月からカナダで手術を受けて、成功したら歩けるようになるかもしれないんです。日本に帰ってくるのは九月になりますけど」 「そうか。治ったら良いな」 「はい!!」  真っ直ぐな笑顔。さっきまで暗い話をしている間も終始笑顔を絶やさなかった泰生だが、俺の言葉でまた一段と明るさを増した様子だった。
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