君の脚は綺麗だ

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 夏休み明け。九月の初めの始業式の日。この日は泰生がカナダから帰国する日だった。例にもよってロングホームルームとテストだけの午前授業。俺達三人は泰生の帰国の飛行機に間に合うよう急いで空港へ向かった。  空港のロビーは仕事中のサラリーマンや旅行目的のシニアの人、まだ夏休み中の大学生などで賑わいを見せていた。高校の制服で来ているのは俺たち三人だけ。探そうと思わなくても向こうが見つけてくれる可能性も高い。……泰生が普通に歩いて出てきたら気付くのが遅れるかもしれないし。 「芦屋、泰生が帰って来たら初めに何て言うか考えてる?」  そう聞いてきたのはキョロキョロと落ち着きのない細谷さん。 「特に考えてはいないけど、おかえり……とは言ってあげたいかな。細谷さんこそ久しぶりの再会に涙して何も話せないなんてやめてくれよ」 「そ、そんなことあるわけないじゃない! 馬鹿なこと言わないでよね!」 「はいはい。それなら安心ですよ」  俺に怒りの眼差しを向けている内は問題ないだろう。まあ、あまり期待はしてないけど。 「あと一分もしない内に出てくると思うけど、綾香のところには何か連絡来た?」 「ううん。向こうで飛行機に乗ったって連絡からは何もないよ? にしても、手術が成功したか失敗したかくらい教えてくれててもいいのにねー」 「どうせ再開の瞬間に歩いてる姿を見せて驚かせようって魂胆だろ。まあ、分かってても驚きはするだろうし喜びもするんだろうけど」  そんな話をしていると、丁度ロビーに人が出て来始めた。先頭の方の集団には泰生の姿は見えない。 「ねえ貴志」  小声で俺にしか聞こえないように綾香が口を開く。 「どうした?」 「もし泰生ちゃんの手術が成功して歩けるようになってたとして……脚フェチの貴志は泰生ちゃんの事を好きになっちゃったりするのかな?」 「は? なんでそんなこと聞くんだよ」 「ううん。特に意味は無いけど……ごめんやっぱり今の忘れて」  何事も無かったかのようにロビーへ降りてくる人たちに視線を戻す綾香だったが、俺は少し考えさせられていた。 「……今まで足の不自由な泰生に対して恋愛感情ってのは正直なところ全くなかった」  少し話しながら整理したくなった。
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