君の脚は動かない

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「芦屋君って噂以上の変態ね。じゃあ何? この私の脚よりも綺麗な脚ってどんなのよ。誰? 私だって毎日ジョギングとウォーキングとストレッチを欠かさないし、その辺の運動部の女よりは使ってるわ!」  細谷さんは親の仇でも見つけたかのような目で睨み付けてくる。具体的に誰が細谷さんより綺麗な脚かと問われると、今まで出会った中で最も綺麗な脚と言える女子が一人だけいる。と言うか、幸運なことに幼馴染なんだけど。 「風井綾香。彼女が俺の見てきた中で最も綺麗な脚の持ち主だ」  小学一年生の頃からバレーボールで鍛えた足腰。足首は過去の捻挫のせいか決して細いとは言えず、膝は度重なる擦り傷で薄黒くなっている。よく食べるからか、皮下脂肪は少ないわけではないし適度と言うより過度に付いた筋肉で、少し力を込めただけで大腿四頭筋が角ばる。世間一般で言う美脚とはほど遠いだろう。 「あんな男みたいな脚が良いって言うの? 確かに足以外はなかなか可愛い子だとは思うけど……。てかそれなら脚フェチなんて名ばかりじゃない! あ、風井さん丁度いいところに! 聞いてよ。芦屋くんったら風井さんの脚が一番綺麗だ何て言うのよ? 有りえなくない?」  そんな事を本人に言ってしまう細谷さんの方が有り得ないんですけど。 「細谷さんこんなバカの言う事真に受けちゃだめだよ。どうせ幼馴染だから適当な話振られた時に名前出しとけば良いや的な感じで私の名前使ってるに決まってるんだからー」  そんな事はないぞ。と反論したいけど流石に本人にそんな事は言えず……。と言うか綾香の脚が一番だなんて初めて本人の耳に入ったんじゃないだろうか……。ああ、頭が痛い。 「おーい。みんな席に着けー。ホームルーム始めるぞー」  始業式後のロングホームルーム。皆が同じクラスになれた事に一喜一憂している中、蜘蛛の子を散らすように先生が教室に入る。先生の声にさっと席に着くあたり、真面目な校風が見て取れる。  全員が席に座った中、俺はふと隣の席が空いていることが気になった。席が空いている……と言うより机だけで椅子が無い。何だろう。数が足りなかったのか? はたまた忘れられているのか。 「えーさっそくだけど転校生の紹介をする」  可哀想に。その言葉を聞いた瞬間の俺の感想はその一言に尽きる。何せ転校生が座る席は俺の隣。つまり椅子が無いのだから。
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