君の脚は少し動く

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 翌日、いつも通り登校時刻ギリギリに教室に入った俺は泰生と綾香の笑顔で迎えられた。 「おはようございます芦屋くん。昨日はありがとうございました」 「おはよう貴志。昨日は泰生ちゃんに学校案内してあげたんだって? やるじゃん!」 「おはよう。学校地図まで案内しただけだよ」 「そうなの?」  首を傾げる綾香に泰生は補足説明するように昨日の事を話していた。普通なら冷たい奴だとかどうとか言って俺の事を責めてもおかしくはない。しかし、なまじ長い付き合いの綾香は何も言わず……と言うかむしろ泰生に何か言おうとしてやめているようだった。俺の顔色を伺っていたから言うべきかどうかを考えていたんだろう。  俺が障碍者に嫌悪感を持っていると言うことやその理由なんかを―― 「ホームルーム始まるからまた後でね」  綾香はそう言って自分の席に戻っていく。俺たちとは離れた一番前の席に。 「ねえ芦屋くん?」 「ん? どうかしたのか?」  俺の顔を覗き込むように聞く泰生。車椅子でそんな姿勢を取っていると、凄いバランス感覚だと感心させられる。 「芦屋くんが脚フェチって聞いたんですけどホントですか?」 「いったい誰から聞いたんだ?」  さっきまで話していた綾香か、はたまた他の誰かか…… 「私、教室には誰よりも早く来てたんですけど誰って言うか……みんなが噂してたって感じですかね。で、ホントかどうか本人に聞いてみようかと思いまして」 「聞いてどうするんだ?」 「いち女の子として脚にどんな魅力があるのか知っておきたいだけです」  変わらずニコニコと聞く泰生。しかし俺はその言葉がどうも心に刺さるように痛かった。なにせ、それを聞いているのは脚を動かすことができない人物なのだから。 「あ、今脚が動かない私に気を使おうとでも考えました? お気遣いなく。背の低い女の子が長身の魅力について尋ねる程度のものです」 「そういうものか? まあ、そこまで言うなら良いけど。確かに俺は脚フェチだよ。綺麗な脚が大好きだ」 「そっかー。やっぱり脚は動く方が良いですか?」 「そんな質問初めてされたよ」 「やった! 芦屋くんの初めてを一つゲットできました」  誤魔化すようなその言葉に俺は何とも返事ができないでいた。
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