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夕暮れ時の誰もいない児童公園の真ん中に立った俺は、すっかり元気になったアゲハチョウを虫かごから出してやった。
離してやればすぐにどこかへ飛んでいくかと思っていたが、その蝶は不思議なことに飛び立った後もしばらく俺の頭上を舞い続けていた。
「で、そのまま日が暮れて暗くなってもずっと飛んでたんだよな、俺が公園を離れるまで」
「……よく、そんな昔のこと覚えてますね?」
「いや、不思議だなぁって思ったからさ。結局あれが何だったのか分からずじまいだし」
揚羽からの問いかけに答えながら彼女の方に視線を向けた途端、俺は目を見張った。
彼女は泣いていた。
瞳に涙を浮かべ、口をぐっとつぐんで。
でも、その表情はどこか嬉しそうで、喜びを必死で圧し殺している、そんな表情だった。
「ど、どうした!?」
俺が慌てて声をかけると、彼女はしまったという風でいそいそと目元を拭った。
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