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「だって凄く嬉しくて……。先輩があの時の事を覚えてくれていたなんて、思ってもみなかったから」
「あの時って、何の話だ?」
いきなりこの後輩は何を言っているんだ?
今のアゲハチョウの話にいったい何の関係がある?
頭に疑問符を浮かべて怪訝な表情を見せる俺を見て揚羽は小さく笑った後、すっと真剣な眼差しを向けてきた。
笑ったり怒ったり、いつも表情がコロコロ変わる彼女が初めて見せた表情に、俺は思わず息を呑んだ。
「……どうして、アゲハチョウは先輩の所からすぐに離れなかったか分かりますか?」
「……いや」
「離れなかったんじゃない、離れたくなかったんですよ」
「離れたくなかった……?」
「そうです。舞い上がった蝶はそこで思い知らされたんですよ。自由に飛べる自分と、それを見上げるだけの彼を見て、世界が違うと。」
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