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「あなたへの思いを伝えることができず、傍に寄り添うこともできない。それでも諦めきれなくて、その場でただ舞い続けることしかできなかった」
「それで、アゲハチョウは何を伝えたかったんだ?」
「分かりませんか?」
「ああ」
そう答えると揚羽は、呆れたといった様子で大きくため息をついた。
そして、まだ地面に落ちた砂糖水を吸うアゲハチョウに目線を落とした
「愛してるって、伝えたかったんです」
愛してる?
何を言ってるんだ、この後輩は?
あまりにも突拍子もない発言に思わず聞き返しそうになったが、隣に立つ後輩の横顔は、普段からは想像もつかない真剣さを伴った表情に見えたため、とっさに言葉が出てこなかった。
「幸か不幸か、虫の一生は人と比べるとはるかに短い。すぐにチャンスは巡ってきました。人として新たに生を受けて、この思いを伝えに行くチャンスが」
そう言うと彼女は俺の方を見やり、真剣な眼差しでこちらをまっすぐ見据えた。
「先輩、愛してます」
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