16人が本棚に入れています
本棚に追加
ぐらりとふらついたのは風邪のせいだと思っていた。だが今振り返ってみれば、それがすべての始まりだった。だからまさかそんな些細な異変が――と、それに気がつくのにずいぶんと時間がかかってしまったのも無理なかった。
病院の待合室のトイレの冷たい壁に手をつき、紙野夏毅は体を支える。期末試験が近く、さっさと治して万全の体調で試験に臨みたいなどと考えていた。
普段の勉強がそれほどきっちりできていたわけではなかったから、この時期からエンジンをかけたかった。風邪で出遅れている場合ではないのだ。こんなことなら早くから真面目に勉学に打ち込んでいればいいのだが、そこはそれ、それほど好きでもない勉強に時間を使うよりも、数ある誘惑に負けてしまう多感な男子高校生であった。
最初のコメントを投稿しよう!