3人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
女王が死んだ。
だから彼らは旅に出た。
何故女王が死んだら旅に出るのだ。
と思われるかもしれないが、人の世がそうなってしまったのだから仕方あるまい。
ーー西暦4000年
人は蟻になっていた。
見た目の話ではない。人生そのものの話である。
と言っても分からないであろうから、少しここに至るまでの人の世について解説しよう。
もともと女性差別が問題視されていた人間達。
段々とそれが消滅していったところまでは良かったのだが、しばらく経つと今度は男性が低い立場に置かれるようになってしまっていた。
販売員も全て女性。研究開発をするのも全て女性。政治家も全て女性。
女性より能力が劣る男性は仕事をするな。
そんな世の中になってしまったのである。
そこからさらに時は進み今から500年前。
その時の女王によってついにある薬が開発される。
薬の効果は【見た目は人のまま。しかし思考、生活スタイル、身体の仕組みは蟻になる】というもの。
そしてそれはすぐに全人類に投与されることとなった。
人類蟻化計画である。
蟻は女王蟻、働き蟻、雄蟻の三種類に分けられる。
働き蟻は全て雌で構成、雄は何もしない。
女王蟻が死ねば、ハネムーンが行われ、次の女王蟻候補が外に出て雄蟻と交尾を繰り返す。
女王蟻はそのハネムーン期間の精子を体内に保存、そしてその精子達を長期にわたって産み落とし、働き蟻を増やしていく。
また、死期が近付けば次の女王蟻候補の為に雄蟻を産む。そうして女王蟻を中心に回り続けて、繁栄していく。
人の女王はそのような圧倒的な権力を有していて、さらに他者よりも10倍近く長生きする蟻の女王に憧れていたのだ。
そうして人類蟻化計画から500年が経った今、すっかり人は蟻になっていた。
これはそんな世の中を生きる「人」の物語である。
最初のコメントを投稿しよう!