ハネムーン

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「もう、なんで私が外に出なくちゃいけないのよ!」 女王候補として男探しの旅に出ることになってしまったことに憤りを隠す気のない美羽は、転がっている石を力一杯蹴り飛ばす。 「止めなよ、石に当たっても仕方ないだろ」 「何よあんた! 男の癖に!」 「……ごめん」 隣にいるのは未来の女王の為だけに産み落とされた男である仁志。 仁志と美羽は同じ日に生まれ、立場の違いはあれどずっと一緒に育ってきた。 しかしこうして旅に出された際にまで一緒に行動するのは極めて異例の事である。 普通は女王候補は一人で行動する。 そして良い男を見つけては性行為をし、終われば性行為をしたことにより死んでしまう男を放ったらかしにして、また新しい男を探しに行く、というのが自然の流れなのだった。 では何故二人は今一緒にいるのか。 それは彼女が旅に出た直後から彼の元に来て、「あんた、私と一緒に行動しなさい!」と命じたからである。 女王候補に命令されると男は嫌とは言えない。いくらそれが昔は仲良くしていた女の子でも、子供の頃とは立場の違いがより鮮明になってしまっているからだ。 もっとも、彼は彼女といる事を嫌とは思っていなかったのだが。 むしろ一緒にいれることを嬉しく思っていた。 「あ、仁志見て見て! 綺麗な虹が架かってるよ!」 美羽は突然現れた虹に仁志の腕を掴んで興奮しながら報告する。 それは子供の頃には当たり前の光景。 いつも楽しそうにはしゃぐ彼女と、それを隣で笑顔で見る彼。だが今はそれが当たり前ではない。 彼女はハッとした後掴んでいた彼の手を離し、身体を突き離した。 「馴れ馴れしくしないでくれる? 私は女王候補なんだからね」 ツンっと唇を尖らしながら腕を組んで他所を見る美羽に、またもや仁志は頭を下げて謝る。 「……もういいわよ」 彼が頭を上げた時には、既に彼女は前を向いて歩き出していた。 仁志は美羽の背中を追いかけながら思う。 彼女は子供の頃から変わっていない。口調は変わったけど、優しくて明るいままだ。 けれどそれを必死に抑えつけようとしている。変わろうとしている。 それが彼にはとても苦しそうに見えていた。 そしてそんな彼女に何もしてやれない彼もまた苦しんでいた。
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