ハネムーン

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ーー 夜。 彼らは川沿いで火をおこしている そこは彼らが旅に出てから、ずっと住まいとしているところであった。 初めに場所を選ぶ時、どうしても水のある場所の近くがいいと美羽が駄々をこねた為にここになった。 美羽はやや潔癖なところがあり、自分の身体を毎日洗いたいと訴えてきたのである。 仁志には特にこだわりは無く、いつものように素直に了承した。 「はい」 美羽は昼に仁志が捕まえた豚を上手に焼き、きっちりと二つの皿に分ける。 「僕はこんなにはいらないよ」 「いいから食べなさい」 彼女は自分の皿を仁志の手が届かないところに移動させた。 それは仁志の性格を理解しての行動である。 彼女が豚にかぶり付くと、仁志も豚を食べ始める。 彼女は豚肉が大好きだった。 彼はそれを覚えていたから豚を探し回った。 女王候補は沢山食べなければいけない。それを彼は知っていて、大好きな豚肉ならいっぱい食べてくれる筈だと考えたのだ。 しかしそんな好物でさえ彼女は独り占めしようとしなかった。 食べ終わった後、名残惜しそうに皿を見つめる彼女を見ると彼は悲しくなった。 自分が美羽の隣にいることで、彼女の幸せを奪っているような気さえしていた。 「身体洗ってくる。絶対こっち見ないでよ。見たら謝ってきても許さないんだから」 美羽はいつも火をおこしている場所から離れた場所に浸かりに行く。 そこはお互いの目が届かない場所である。 一日の中で唯一二人が離れる時間。 仁志が最も不安になる時間である。 石につまづいて転ばないか? 熊に襲われやしないか? 川の流れが急に速くなったりしないか? 様々な心配事が彼の脳裏に浮かぶ。 「きゃああああ!!」 そうして美羽への心配に駆られていた彼の耳に、叫び声が聞こえてきた。 それは彼女の声である。 間違えようもない声に彼はすぐに立ち上がり、彼女がいる場所に必死に走った。 サンダルを履いてくるのを忘れたせいで足の裏に傷が出来る。けれども彼はその痛みにも気付かなかった。 それだけ彼女で頭が一杯になっていたのである。 やがて溺れている彼女が見えてくる。 彼女は足が攣っている様子だった。
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