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その力強さに、旭の身体が一瞬後ろに動く。でも、グッと堪え、その勢いに耐えた。
「僕も……旭が好き! 好き、好き、好き……」
「夏樹……」
「でも、好きだから……大好きだから……僕じゃ駄目だって思うんだ」
「……なんでそう思うんだよ」
「だって、旭にはちゃんとした家庭を築いて欲しいから……それを……皆が願ってるから……」
家庭を築いて欲しいと夏樹は言う。でも、そんなの旭は求めていない。
「なんで僕なの……。旭の事を好きな子……いっぱいいるのに……っ」
「夏樹……」
「なんで僕……女の子じゃなかったんだろう……。なんで僕は……ンッ……」
もう、我慢の限界だった。これ以上、夏樹を思い詰めさせたくはなかった。旭は、なんで、なんでと何度も言う夏樹の口を塞いだ。そして、落ち着きを取り戻したと感じた瞬間、唇を離す。
「なんで僕……旭の事…こんなに好きになっちゃったんだろう……」
「それはお互い様……」
旭はそう言うと、ニコッと笑った。笑って、また夏樹の震えた身体を優しく抱き締める。
「俺は夏樹とずっと一緒にいたい。夏樹と家庭を築きたい……」
「こ……子供できない……」
「子供? いらないよ。俺は夏樹がいれば十分幸せ。夏樹は? 子供欲しい?」
そう尋ねると、夏樹は頭を左右に振った。
「旭がいれば……側にいてくれたら……それだけで……僕も幸せ……」
「夏樹……」
「僕も旭がいればそれでいい。前みたいに側にいたい……っ」
「俺も……好きだーー!」
「わあっ!」
旭は嬉しさのあまり、そのまま夏樹をベッドに押し倒した。そして、ゴソゴソっとポケットからある物を取り出し、夏樹の細い左指に嵌める。
「旭……これ……」
「指輪。今さっき買ってきた」
それは、ここに来る途中寄ったジュエリーショップで買った物だった。
「な……んで……?」
「なんで? 夏樹の気持ちがもう不安にならないお守りにしたくて。安物だけどね」
「っ……」
夏樹は指輪を見て、また泣き出した。
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