第一章 - 好きになったのは人妻二児の母

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「尾崎さん? ごみを捨てるだけだっていうのに随分と素敵な装いですね」 「あ、このまま出掛けないといけないんですよね。失礼します」 「あらそうですか。尾崎さん色々気をつけて下さいね」  金本さんの言葉に私の体は寒気を感じる。  何も知らなければ、金本さんの言は彼女への気遣いにしか聞こえるから。 「ありがとうございます。お先に失礼します」  尾崎さんは輪に加わらず来た道を引き返していく。 「あ、私もパートの時間までに家事を終わらせたいので失礼します」  私はこのくだらない場を後にする。 .  私は尾崎さんと二人で来た道を戻る。 「あの三人は、今頃私の悪口を言って盛り上がっているんでしょうね」  私は、どう答えたものか迷う。  そんなことない。と言うのは簡単だけれども、彼女に言う通りの事が起こっていると私自身も考えていることだから。 「あまり、気にしない事ですよ」 「はい、そうします。でも、今日は本当にこの後用事があって…… 病院の予約遅らせればよかったのかしら?」 「どこか、お体の具合が?」 「いえ。健康そのものです。ただ、産婦人科のほうにちょっと」  尾崎さんはとても嬉しそうにはにかんだ。 「おめでとうございます」  私はめでたい事だと心から伝える。 「いえ、まだわからないんですけど…… その時は、色々相談に乗ってください」 「ええ。私で良ければ」    彼女と別れ、一人考える。  本当に子供を授かっていれば喜ばしいことだ。  ただ、あの三人が邪推な想像を膨らませ、心無い言葉で彼女を傷つけないか心配の種もあり、先行きに不安も感じる。
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