第一章 - 好きになったのは人妻二児の母

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 あの日以来、岡崎君に避けられている。と、私は感じている。  仕事上でのわずかな時間でしか係らないとはいっても、今まで何気なくしていた雑談がなくなると口惜しく思う。  嫌われる事をしたなら謝りたい。  ただ、オバサンをからかっていたのならそれでもいい。  ただ、今のままだと釈然としない。  仕事が終わる時間も一緒な今日を逃す手はないと気合を入れて彼を誘う。彼もまた観念したように私の誘いを首肯した。  毎回静寂が訪れない車内も今日と言う日は沈黙が支配している。  何か、話題を。と、頭の中を駆け巡らせるが、私が話せる内容は娘の話と夕飯の献立ぐらいしか思い浮かばない。  若かった時、結婚する前だったら話が尽きないほど話題があっただろうに、今じゃ料理のレパートリーしか持っていないと気が付き口を結ぶ。  話題が提供できない自分を不甲斐なく思う中、車内はクーラーの音だけを響かせ進んでいく。 「私の事避けていたよね?」  和やかな空気の中で、話したかった。  もしくは、避けられていた訳ではないと。判ればよかった。  私は意を決して口にした。  長い沈黙から一言 「はい」 と、彼は言った。  下手に誤魔化されるよりもよっぽどいい。  そんな会話をしただけで、別れる場所であるコンビニに辿り着いた。 「ねえ。明日からも私の事避ける?」 「……わかりません」 「もしかして、ずっと迷惑? 不快にさせたりしてたのかな? ごめんね」 「ち、違います」  強く、強く否定してくれた。  その力強い言葉は私の心を嬉しくした。 「藤井さんが謝る事なんて何一つなくて……ただ俺が……」 「分かったわ。お寿司を食べに行きましょう」 「はい?」  怪訝な顔で見つめる瞳はやはり困惑の色が映っている。  私は悪戯心で、アクセルを踏み発進させる。 「ちょっと待ってください。今、そんな話でもなかったですし、空気でもなかったですよね?」 「お昼は、食べないかインスタントラーメンかカップラーメン食べるつもりだったんじゃないの? だったら、お寿司のほうがお得よ。ご馳走してあげるから気にしないで」
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