第一章 - 好きになったのは人妻二児の母

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「いやいや、どうしたんですか? そもそも」 「お。元気出てきたじゃない。岡崎君は、ステーキとかお肉のほうが好きだったりする? 娘がお寿司好きだから、選んだんだけど」 「いや、お寿司のほうが好きですけど。ねえ、聞いています?」 「聞いているわよ。でもね、岡崎君は悩みを言ってくれない。私が悪い訳でもない。だから私はどうすることもできない。そうじゃない?」 「その通りですけど、お寿司関係ないですよね?」 「大ありよ。いい? 避けたい訳ではない。でも明日になったら避けるかも。だったら、今一緒にいるこの時間が、最後かもしれないでしょ? 違う?」 「違いません」 「だからお寿司よ」 「だからお寿司ですか」 「そうよ」 「それはあれですか? レーンで回ってくるお皿と俺の悩みを合わせて、藤井さんが食べてくれるっていう……」 「ごめんなさい。そんなことは少しも考え付かなかったわ。それにそこのお店お昼はセットメニューで回らないわ。でもそうねぇ、岡崎君。あなたの悩みを一つ、握ってくださるかしら?」 「お時間を少々戴きます」  そう言い彼は笑った。  私は胸が温かくなった。彼が笑ってくれたから。  その答えを求めてはいけないと目的地に急いだ。 「藤井さんをきっと……困らせると思います」  それは、困る。  が、本来人は誰かを困らせながら生きている。人と人は困らせながら繋がっている。   私は「いいよ」と微笑みで返した。  岡崎君は、息を何度か吐いては吸う。を、繰り返す。  購入したコーヒーには口をつけず深呼吸を繰り返し、決意を固めるかのように。  お寿司を食べ終えてから、私はどうしたものかを考え、全国にあるコーヒーチェーン店に移動した。  駐車場があり、他人の目が気にならず、ゆっくりと出来る所。  そこ以上。の選択肢が浮かばなかった。    私が主婦業から離れられるリミットは五時。二時間もあれば話せるだろうと思っている。  だからと言って、手持無沙汰は否めない。  コーヒーを一口含み彼を見つめる。  彼の唇が開くのを見逃さないように。
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