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「いやいや、どうしたんですか? そもそも」
「お。元気出てきたじゃない。岡崎君は、ステーキとかお肉のほうが好きだったりする? 娘がお寿司好きだから、選んだんだけど」
「いや、お寿司のほうが好きですけど。ねえ、聞いています?」
「聞いているわよ。でもね、岡崎君は悩みを言ってくれない。私が悪い訳でもない。だから私はどうすることもできない。そうじゃない?」
「その通りですけど、お寿司関係ないですよね?」
「大ありよ。いい? 避けたい訳ではない。でも明日になったら避けるかも。だったら、今一緒にいるこの時間が、最後かもしれないでしょ? 違う?」
「違いません」
「だからお寿司よ」
「だからお寿司ですか」
「そうよ」
「それはあれですか? レーンで回ってくるお皿と俺の悩みを合わせて、藤井さんが食べてくれるっていう……」
「ごめんなさい。そんなことは少しも考え付かなかったわ。それにそこのお店お昼はセットメニューで回らないわ。でもそうねぇ、岡崎君。あなたの悩みを一つ、握ってくださるかしら?」
「お時間を少々戴きます」
そう言い彼は笑った。
私は胸が温かくなった。彼が笑ってくれたから。
その答えを求めてはいけないと目的地に急いだ。
「藤井さんをきっと……困らせると思います」
それは、困る。
が、本来人は誰かを困らせながら生きている。人と人は困らせながら繋がっている。
私は「いいよ」と微笑みで返した。
岡崎君は、息を何度か吐いては吸う。を、繰り返す。
購入したコーヒーには口をつけず深呼吸を繰り返し、決意を固めるかのように。
お寿司を食べ終えてから、私はどうしたものかを考え、全国にあるコーヒーチェーン店に移動した。
駐車場があり、他人の目が気にならず、ゆっくりと出来る所。
そこ以上。の選択肢が浮かばなかった。
私が主婦業から離れられるリミットは五時。二時間もあれば話せるだろうと思っている。
だからと言って、手持無沙汰は否めない。
コーヒーを一口含み彼を見つめる。
彼の唇が開くのを見逃さないように。
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