第一章 - 好きになったのは人妻二児の母

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「お先に失礼します」  私は、パート仲間に頭を下げスタッフルームを退出した。  本を中古販売するお店で働きだして三ヶ月。右も左もわからなかった新人の時を思えば、肉体的な疲労を感じない。  始めたばかりの頃は、出来合いのお弁当やお惣菜を娘達に食べさせていたのは苦い思い出。  大型スーパーの中に職場があるから、食品売り場で買い物をしてから帰宅する。これも今では日課になっている。  一周回り、ミートローフのための挽肉に、特売品。 お弁当に入れる冷凍食品、果物などを買い物かごに入れていく。  七つあるレジはどこも二人、三人が並んでいる。 私は一番早く回ってきそうなレジに当たりをつけて並んだ。 「藤井さん、お疲れ様です」  後ろから男性に声を掛けられ振り返る。 「岡崎君も、お疲れ様です」  バイト仲間の男の子。  人は会話無くして仲良くはなれない。  ただ、会話をすると言っても、簡単な話ではない。会話をするうえで共通の話題がなければ、困難ここに極まるといった具合だ。  私の頭の中と言えば子供の事、親の老後も気になりだし、お金の問題だって少なからずある。主婦らしく毎日の献立だってある。  パート先は若い子達が多いい。ほとんどが二十代。少ないながらも私と同じ主婦だっていて、彼女等とは話題も合えば会話も弾む。   女の子との会話は、『流行』 そんな話題では蚊帳の外だけれども、男性の胃袋の掴み方。美味しいハンバーグの作り方から、カレーの隠し味。 『家庭的』 その部分で会話を広げ仲良くなった。  問題は男性だ。  会話無くして仲良くなれない。  逆を言えば、仲良くしたければ会話をしなければ始まらない。無理にでも。  そう、仲良くする必要がなければ話題を探す必要なんてない。無理をしてまで。  周りには若い子がいるのだ、わざわざ四十過ぎたオバサンに割く労力は青春の無駄遣いだ。  まぁ、人の趣味は千差万別。熟女好きって稀有な存在もいるだろう。  ただ、この場にはいない。女子の青春が恋愛と恋でできているなら、男子の青春は、下心と性欲でできている。目まぐるしく過ぎていく時の中で無駄にする時間は誰もかれも必要としないのだから。  私は男の子達と挨拶以上の会話が続かない。
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