第一章 - 好きになったのは人妻二児の母

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 十分と言う時間は、あっという間に過ぎていく。 「あそこの、コンビニでいい?」  彼は頷き、車が動き出してから始めて静寂が訪れる。  車を、一時的にコンビニの駐車場に停める。  駐車スペースが十台以上停められるコンビニだから、気兼ねをしないですんでいる。 「ありがとうございます」 「えぇ、どういたしまして」 「藤井さんは素敵ですね」  シートベルトを外しながら彼が言った。 「ちょっと、から……」  からかわないでと言う言葉は私の口から出ることはなかった。  彼が顔を真っ赤にしながら、耳まで染めて発したから。 「本当にありがとうございます。では、またバイト先で」  遁逃する彼の後ろ姿に 『ええ。また』 と私は見送った。    私はアクセルを踏み家へハンドルを切る。  頭の中で別れ際の言葉が反芻する。  仰々しいが、尊敬と捉えて差し支えないだろう。  そう結論付けるが、真っ直ぐ向けられた視線が霧散させる。彼のはにかむ顔がそれだけじゃない。足りないと訴えてくる。    家についてもしばらくの間、母の顔に戻らない私の姿が鏡に映っていた。
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