その4 「マコト!空いてる部屋に布団敷いて」

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 土曜の午後、メンバーは再び熱海駅に顔を揃えた。互いの気持ちが一つにまとまっているのか、一様に晴れ晴れとしている。それは基本となる周波数に、各々固有の周波が歩み寄り、同調している姿にも見えた。  それぞれ共通の思いが共鳴し合い、結果として表情に表れているから、そう思えるのだろう。あのありさでさえにこやかに微笑んでいるのだから。以前この場で初めて出会った時とは皆別人のようだ。  ありさが絵理奈の胸に光るサンマに目をやった。そしておもむろにケイタイをバッグから取り出し、ストラップのサンマをそれとなく掲げると、他のメンバーも顔をニヤつかせ、それぞれ自分のサンマを見せた。慎一にもらったサンマの飾りはお守りであり、言葉の要らない共通の合言葉でもあった。  マコトは、おばあさんと慎一が待つダイエットの聖地へ向け車を走らせた。  以前と何ら変わらない風景が一行を出迎えた。当たり前だ、わずか一週間で変わるはずもない。けれども彼らの胸中には確実に懐かしさが存在し、心境が変化した点では違う風景に見えていたかもしれない。  車が着くとほぼ同時に玄関から慎一が飛び出して来た。  「やぁ~みんな~お帰り~」  爽やかな笑顔で慎一が出迎えた。  一部の旅館などでは到着早々「お帰りなさいませ」と出迎える事もあるが、自宅に戻った感覚で存分にくつろいでほしい、と言う宿からの心配りである。慎一の「お帰り~」も、ここはみんなの家だから、そんな思いが自然と口をついて出たのだ。  車を降り全員が慎一の元へ歩み寄った。だがありさだけは2~3歩離れた所から慎一を見つめていた。彼女の中では既に愛の劇場が始まっているのかも知れない。  「疲れたでしょ~ まずは上がって休んでください」  促されるまま、一行は見慣れた大広間へ上がり落ち着いていると、窓越しに外の様子を眺めていた奈央が、大きな声で口にした。  「あーっ あのプレフィットの看板な~に~?」  皆一様に視線を向けると、プレフィットの入り口ドアのすぐ上に、木で出来たサンマの看板が掛けられていた。
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