岡本絵莉花の作文「友人」

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1  「友人」                                     岡本絵莉花    私の名前は岡本絵莉花。私には高校に入学した時からずっと仲の良い友人が二人いる。岡本利佳子と、里村恵理花だ。  私たち三人は席が近く、名前がよく似ていたので、自己紹介のあとすぐに仲良くなった。    しかしはやくも問題が生じた。  岡本絵莉花をどう呼ぶか。  私たちの中で唯一「リカコ」の名を持つ岡本利佳子のことを、利佳子と呼ぶことには何の躊躇もない。そこに異議を申し立てる阿呆はいるわけない。  出会って間もない子を下の名前で呼ぶのは図々しいかなと、心配になるかもしれない。しかし私と里村恵理花は図々しいのだ。出会ったその日に、利佳子の弁当箱からタコさんウインナーを失敬したくらいである。  そんな私たちは全く遠慮することなく、いっそふてぶてしく彼女のことを利佳子と呼んだ。   私たちの中で唯一「サトムラ」の姓を持つ里村恵理花のことを、里村と呼ぶことには何の気後れもない。そこに異議申し立てする奴なんか放っておけば良い。  せっかく仲良くなれた友達なのに苗字で呼ぶのは冷たいかなと、悩むかもしれない。しかし私と利佳子は冷たいのだ。里村が財布を忘れても、絶対にお金を貸さないくらいである。 そんな私たちは個体を識別するためだけに、親しみを込めず彼女のことを里村と呼んだ。  私たちの中には「オカモト」も「エリカ」も二人ずついる。その中に「オカモトエリカ」が一人いる。  では「オカモトエリカ」を何と呼ぼうか。「オカモト」とも「エリカ」とも呼ぶべきに非ず……。  「岡本で良いじゃん。私だって苗字だし」と里村が言うと、  「は?それだと私の苗字と被るじゃん。里村は良くても私ら岡本はダメなんだよ」と利佳子が返した。    何でも良いから早く決めろやと思っても私は口に出さない。口に出したら図々しいし、冷たいから。私はこの二人といると客観的に自分を見れる。    岡本絵莉花を何と呼ぼうか。  難題なこの問いに、迎え撃つのは冷たい女、利佳子と図々しい女、里村である。  冷たい女と図々しい女は、私にニックネームを与えることで問題解決を図った。  
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