6.Music festival.-吉澤蛍の場合-

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「こんな早くなると思わなかったから、まだ部屋空けてないんだ」 「急にごめんね。 俺も、まさかこんな予定が早まるなんて思ってなかったけど⋯ 」 部屋の中に荷物を運び入れ、下ろしながら苦笑いを浮かべた。 「まぁそうだよな。 でも、蛍ならいつでも歓迎だから」 「⋯ ありがとう」 撫子と親子である事がバレない様にと秋良の所でお世話になる事にしたが、よく考えてみたら好意のある相手と “同居する” ということで、そこまで頭が回らなかった事に我ながら呆れた。 もう少し時間があったらここに来る前に気付いたのかと言われたら自信が無いけど、お世話になるのは変わらないんだから拘わった所で仕方がない。 ─決して嫌な訳では無い。 素直に嬉しいと思う。 でも、不安はある。 学校も、仕事も、帰る場所も一緒。 離れている時間なんて無い位だ。 秋は、嫌じゃないんだろうか? いや、ダメだ。 ひとりで考え込まない事にしたんだった。 やる事があるからと先にシャワーを勧められる。 入っている間の大半は、同居についてネガティブな考えが脳内を占領していた。 ストップを掛ける事が出来たから良かったけど、危うく山口の言う “さっきと同じ顔” になる所だった。 頭を切り替えて部屋に戻ると、リビングでパソコンに向かう秋良の姿が目に入る。 近付くとすぐに存在に気付き、手を引かれて簡単に腕の中だ。
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