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「雨野くんが好きです⋯ 」
暖かな陽気に、本を日除けにしてのお昼寝タイム。
穏やかな時間が突然の告白によって崩されてしまった事に、本の下で蛍は顔を顰めた。
学校の裏庭、漫画等では割とよくあるシチュエーション。
昼食を取る為にセレクトした、最近のお気入りの場所。
まさかこの何気ない日常の中で “第三者として“ 告白現場に居合わせる事になるなんて、と30分前の自分を恨んだ。
読みかけのハードカバーの本が、しっかりと顔を隠してくれているのがせめてもの救いだ。
存在を消すように静かに、時が過ぎるのを蛍はじっと待つ。
季節は梅雨時期だが、特有のジメジメとした感じはなく、爽やかな風が吹く昼下がりだ。
風の音の向こう側に集中しながら身を潜めること数十秒。
女子生徒のものだろう、パタパタと走り去る足音が聞こえた。
暫く間を置いてからのそのそと起き上がると、男子生徒と目が合った。
先程声のした方向にいた彼がきっと“告白された”側なんだろう。
“えっち”
身を隠したい様な気まずさよりも、しまったという感情が勝りひとり焦っていると、彼の口の形がそう動いた様に見えた。
無音でそう残すと、彼はすぐに校舎の方へと戻って行った。
たまたま居合わせただけ、たまたま目が合っただけなのに、とんだとばっちりだと溜まったモヤモヤを吐き出すように溜息を吐いた。
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