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思っていた、というのはしかし過去の話だ。
家族が出かけた後、窓を見た。窓にはお風呂に入った後でパジャマ姿の少女が映っている。
その先に今にも消えかかる太陽と、儚く力強い藍色の空があった。思わず窓を開けてベランダに出る。まとわりつくような蒸し暑さを感じた。
まだ花火は上がっていないので、それはいつもの景色に見えた。ここからは浴衣姿の人々も見えない。
しかし、確実に人々は花火を見に歩いている。そこには賑やかで明るい景色があるのだろう。夏の暮れかけの空を見てそう、確信した。手に取るようにそれを感じた。
急に、人の声が聞こえないこの空間を意識した。久しぶりにたまらなく孤独感を覚えた。
太陽が、藍色の夏空が、消えていき、黒い夜が、空を覆っていく。
ぱん、ぱぱん。花火が上がった。ここからは見えないけれど音でわかる。
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