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「あれ、蛍だ?」
黄色い光が窓辺にほんのり灯る。
ツー、ツー、ツー。
淡い明滅が細くリズムする。
何かのテレビでしか見たことがないが、きっとこれは蛍だろう。
なぜこんなところにいるのか?
とっぷりと日の暮れた網戸の外側に止まっているようだ。
一匹。ど真ん中に。
私の足が動けば、窓辺に寄って何かしらのイタズラをしてやったかもしれない。
窓をガラリと開けて、網戸のこっち側から蛍の腹目がけてピシッとデコピン! ――とか。
しかし私の足は先月からピクリとも動かない。
どうやら自宅で倒れたらしい。それが原因のようだ。
気づいたらこの病室にいて……手術で髪を剃られてて、高校野球のボールの縫い目みたいな傷痕が頭をビッシリ這っていた。
つまり、倒れた時の状況を何も覚えていないのだ。
幸い入院している病室が個室なので、他人に気兼ねなくてよい。
病名は――知らない。
ていうか、この頭のヒドい傷を見ただけで何も聞きたくないし、知りたくもない。
私、まだ十五歳だよ? ――女の子だよ?
どうすんのよ? この丸坊主にボールの縫い目みたいな傷痕!
女、終わってるでしょ? 人生終わってるでしょ?
これで誰かお嫁にもらってくれるの? 誰か教えてよっ!
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