1,遠い夏の日

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1,遠い夏の日

(やぶき りょう) 矢吹 涼、十五歳、中学三年生、女子。 (まゆむら とき) 繭村 刻、十四歳、中学三年生、男子。 僕らは同じクラスで、親友で、恋人で、最高のライバルだった。 中一の冬にこの町へと引っ越して来た涼は、都会からやって来たせいか、クラスで少し浮いている存在だった。 彼女自身も、他人と深く関わろうとはしていなかったし、最初の頃は、僕と涼の仲はそんなに良くもなかったと記憶している。 隣の席になって、彼女が教科書を忘れて僕が貸してあげたのをきっかけに、二人の仲は急速に良くなったと思う。 まあこれは、あくまで僕の記憶上での話だ。 実際には、もう少し時間が掛かったかもしれない。 本当は始めから、お互いに意識をしていたのかもしれない。 こんな風に青い空を見ると、どうしても学生の頃を思い出してしまうのは。 それだけ、彼女の存在が僕にとって大きなものだったということだろう。 今は隣にいないその彼女に、ほんの少し愚痴をこぼしてしまう。 「本当、何処をほっつき歩いてんだ、涼」 蝉の鳴き声が鬱陶しい。 夏というものは、こんなにも暑苦しいものだったっけ? 歳をとると、どうにも夏を楽しむことが出来なくなってしまう。 日曜日のお昼にひとり、カフェでコーヒー片手に新聞なんぞ読んでいる自分に笑える。 あの頃はどうだった? 懐かしくなって、ふと思いたった。 空になったコーヒーカップと新聞を置いて、ほんの少し浮き足でレジへ向かい、小銭をぴったり渡して、レシートも受け取らずに僕は足早に歩き出す。 二十年前、三年間お世話になった中学校へ。 そう、もう二十年なのだ。 あの日から、そんなにも時間が経っている。 それでもなお、僕が彼女を思い出しては愚痴をこぼすのは、きっとまだ、彼女を忘れられないからだ。 僕の胸に大きな隙間を作ってしまった彼女を、許せないからだ。 蒸し暑い中で、ようやく見えてきた校舎にため息をこぼす。 二十年前と全く姿を変えていない校舎。 嫌でもあの頃の記憶が、鮮明に浮かび上がってきた。 彼女の笑い声が、今もあの校舎から聞こえるような気がした。  
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