1,遠い夏の日

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*―*―*―*―*―* 「トキ!旅行だ!」 満面の笑みで、唐突にそう声を掛けてきたクラスメイト、兼、僕の恋人である彼女の突飛過ぎる発想に心底呆れ果てる。 「受験前にいったい何を考えているんだ」 そう、これは中学三年の夏の日のこと。 現実が見えていないのかと彼女にため息を吐いてやれば、涼は至極真面目な表情で机の上に両手を付き、ずいっと顔を近付けてきた。 「私達の青春、このまま終わらせてしまっても良いのか? 勉強だけで夢を語って来たような空っぽな大人にはなりたくないだろう?」 何処の誰だおまえ。 なんて言いたくなるようなおかしな口調で語りかけてくる彼女に、僕は大きく肩をすくめる。 子供に言い聞かせるように、ゆっくりと、諭すように僕はこう告げた。 「あのな、涼。高校に上がっても、青春ていうものは続いているんだ。むしろ、そこからが真の青春とも言えるくらいだぞ。わかるよな? というわけだから。勉強をしろ、涼」 ずいずいと詰め寄ってくる涼の手を軽く払って、僕は机の中の教科書をかばんの中へと移していく。 もう外は部活生ばかりが闊歩していて、帰宅部の連中なんか居ない時間だ。 涼が先生に頼まれた用事が終わるまで、こうしてわざわざ待っていてやったのに、お待たせの一言も無しにこれなのだから。 本当に困った彼女である。 スタスタとかばんを手に歩き出した僕の背を、涼はとぼとぼといった足取りで着いてきた。 「つれないなトキは・・・。旅行というドキドキハプニングを私自らが提案しているのに、それをなんとも思わないとは」 「・・・何だそのドキドキハプニングって」 思わず振り返ってしまった僕は、悪くない。 拗ねた様子で口先を尖らせて、上目遣いで僕を見上げてくる彼女はめっぽう可愛い。 そして僕はどう取り繕ってもうら若き少年。 女の子とのドキドキハプニングだなんて、そんなおいしいものを無視出来るわけがないのだ。 涼は振り返った僕をチラリ、チラリと見ながら、含んだ笑みを浮かべて説明を始めた。 どこで息継ぎしてるのかと疑うような弾丸で。 「電車での揺れに揉みくちゃにされながらの密着ハプニング。人ごみに逸れないように手を繋ぐが人目を気にして転び掛けてそれを抱きとめるハプニング。ひとつ屋根の下で意識した二人が巻き起こすドタバタハプニング、さらにはお風呂上がりの、」 「よし行こうか」  
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