1,遠い夏の日

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まだまだ続きそうな彼女の言葉を遮り、僕はにっこり頷いた。 もはや理性なんか知るもんか。 こうして涼が僕を誘ってくれているのだ。 それに、考えてみれば一泊や二泊くらいで勉強に支障が出るような二人でもない。 僕らは互いに成績上位を占めていて、唯一張り合えるライバルでもあるのだから。 「そう来なくちゃ!」 なんて飛び跳ねて喜ぶ彼女は、眩しいくらい嬉しそうに笑っていた。 *―*―*―*―*―* 「これを、夏休みの間に全部やるっていうのか??」 旅行の話はどうなったんだ。 そう思った僕は決して間違いではない。 翌日のお昼休み。 涼は数枚のプリントを手に僕の机へとやって来た。 読んでみろと言われてプリントを眺めてみたら、とんでもない量の『夏休みの満足できる遊び方』という名目の無茶振りが打ち込まれていた。 わざわざパソコンで計画表を作ってプリントアウトしてくるあたり、彼女は結構ガチだ。 「もっちのロン!夏休みは約一ヶ月もあるんだ。三日で宿題を終わらせれば、こなせないものじゃないよ」 ニヒヒ。 自信満々といった様子で笑って、大きく胸を張る涼に次の言葉を掛けられない。 プリントにもう一度目を落とし、眩暈を覚えた。 海、川、山、さらには新幹線一周の旅。 新幹線一周については、細かい時間指定までされている。 そしてさらに。 テーマパーク制覇や、夏の風物詩である花火大会やプール、プラネタリウムや水族館、動物園に映画鑑賞・・・・・・などなど、軽く数えただけでこんなにも目が回りそうな計画表を、涼はさも当然が如く僕に突き出してきたのだから。 「ハード過ぎるだろ?無理だ、減らせ」 夏休みの一ヶ月。 こんなの、死ぬ物狂いで動かなくてはならないじゃないか。 あまりにも現実的じゃない計画表に首を横に振れば、涼はギロリと僕を睨んできた。 「却下!無理と決めたらそこが限界となるのだ・・・・・・この名言を、まさか忘れたわけではあるまい??」 「だから何者だよお前は・・・・・・。そうは言っても、本当に無茶だ。実行するにはお金が掛かり過ぎるし、時間も足りる気がしない」 「むう・・・・・・。まあ、金銭面を言われると、確かにそうだけど。じゃあ、少し削るから、残ったヤツは絶対実行してくれる??」 きっとこれは、初めから頭の良い彼女に仕組まれたシナリオだったのかもしれない。  
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