1,遠い夏の日

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───────── ────────────・・・・・・ 「やって来ました海!・・・はぁ~、夢がひとつ叶ったわあ」 夏休み四日目。 丸三日机にかじりつく日々を終えて、そのせいかやけに太陽が目にしみるように感じながらも、僕は彼女を振り返る。 白い肌を惜しげもなく晒している彼女。 ハーフパンツから伸びる足は少し目に毒だ。 橙色のタンクトップの上から羽織ったUV対策のためのパーカーは薄手の素材で、陽に透けて彼女のシルエットを映し出している。 時折パーカーの隙間から覗く鎖骨や肩には、なんというか胸が躍った。 「こんなのが夢の一つだったのか?」 平常心を装いながら、砂浜でキャッキャと黄色い声が聞こえそうなほどはしゃぐ涼に呆れ顔を向ける。 海なんて、僕らの住む町からはバスで簡単に行ける距離にある。 それこそ、山や川へ行くより簡単だ。 行こうと思えばいつだって行けただろうと、僕は彼女を見つめた。 すると、涼はまたあの含んだ笑みで僕に人差し指を突き立てた。 「恋人と、海で、水の掛け合いっこをする。これは乙女の夢だよ」 「・・・またくだらない夢だなおい」 そんな青春アニメでも今時やらないようなことを、まさか、涼がやりたがっていたとは。 僕の思考が読めたのか、涼はムキっと八重歯を見せて反論してきた。 「くだらないとは失礼な!これだから男子は女子から反感を買うんだわ!」 反感て・・・・・・おい。 「いやな、もう少し若けりゃ平気だったかもしれないけどな、この年で・・・しかもこんな近所で受験生が水の掛け合いっこをしてるだなんて噂になったら、あとが色々喧しいんだよ。わかるだろ?」 そう、ここは近所のビーチ。 知る人は知るどころかほとんどの地元民ならここを知っている。 そして残念なことに、見渡してみた限りでは、知ってる人がすでに数人・・・・・・。 「私たちはまだ中学生、若さなら充分あるじゃない! ね? 後生の頼みだから!」 バチン!と合掌して、涼は必死に僕にお願いしてきた。 別に死ぬほど嫌だとかは思ってないし、涼の頼みなら良いか、とも思うがしかし。 「お前、その後生の頼み、あと何回使う気だ?」 この先も何度も聞きそうなそのフレーズ。 僕は呆れながらも頷いて、彼女の望むようにしてやった。  
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