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ファーストキスを奪われたわたしは学校帰りにお社の前に座りでボーッとしてた。
「おねえちゃん、どうかしたの?」
小さな声にふと下を見ると、獣耳、おかっぱ頭の子ぎつね女の子が真ん丸目玉でわたしを見上げてた。
稲荷くんの妹の可愛い月子ちゃん。
「大丈夫。なんでもないよ」
子供の月子ちゃんにわたしの悩みは……うん、言えないよね。
わたしはちょっとだけ笑った。
「お兄ちゃんとちゅーしたから?」
月子ちゃんのドンピシャな問いに、ぶはっ、思わず吹き出した。
げほっげほっ
月子ちゃんにあの時見られてたの!?
「な、見て、た、の?」
「うん」
月子ちゃんはニコニコしてふさふさの尻尾を揺らしてわたしの隣に座って足をブラブラした。
「おねえちゃんはお兄ちゃんのことキライ?」
つぶらな瞳で月子ちゃんがわたしを見上げる。
「キライじゃない、けど、……その、あの、そういうのには今まで縁がなくて」
告られたこともない。
誰かを好きになったこともない。
先輩にちょっとだけドキドキしたことはあったけどそれ以上の発展はなかった。
恋愛初心者マークがついてるわたし。
「お兄ちゃんね、おねえちゃんこと大好きなの。だから、ちゅーしたんだよ」
その言葉に顔が熱くなるわたし。
「お兄ちゃんはどんなにキレイな女の狐にも見向きもしないの。すっごく冷たいの。優しいのはおねえちゃんにだけだよ」
「わたしにだけ?優しい……?」
助けてくれたのは嬉しいけど、いきなりのちゅーされて優しいってのは。違うような。
あれは面白がってる。
「おねえちゃんがお兄ちゃんを好きになっておよめさんになるの」
月子ちゃんは目を輝かせてる。
わたしに懐いてくれた月子ちゃんはわたしが稲荷くんのお嫁さんになるって決まってたみたいに言った。
「お狐さまのお嫁さんには……わたしは人間だし」
白銀の毛並みの九尾のお狐さま。
本来の白狐の神さまとは違う姿だけど、この社に住まう神さま。
そのお狐さまのお嫁さんにはわたしはなれない。人間だもの。
月子ちゃんはキョトンとしてわたしを見上げた。
「? おねえちゃんはもうお兄ちゃんのおよめさんだよ」
わたしは月子ちゃんが言ってる意味を理解できなかった───
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