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 ぼくは柵から身を乗り出し、直下を見下ろす。本能的な恐怖が両の目から舞い込んできて、息をのんだ。  地上百メートルくらいはあるんじゃないだろうか。落ちたら即死だ。肉体と言う鎖からも即解放だ。……なんてことを考えて、思い出したようにぼくは周囲を見渡す。  殺風景なコンクリートの地面。ここだけはモノクロの世界。唯一色のついた世界へと通じている、屋上から屋内へと戻る扉は固くしまっている。誰も来ない、来やしない。 「無駄にきれいだ」  夜景だけは。反対に、夜空に星は無い。やや曇って濁った夜色キャンバスに、地上の明かりがうつりこんで、赤色がかっている。星の無い空と、星夜の如く煌めいている街を眺めていると、天空が地上に総ての星を奪われてしまったように錯覚してしまった。 「悪くない」  そんな自身の呟きに「いや、違う」と心の中で疑問を呈して少し考える。良くも悪くもない、だ。正確には。  今、この屋上には誰もいないけれど、誰かがいたとしたら、分かる人にはわかるのだろう。  ぼくは靴を脱ぐ。茶色の革靴が主を失って、モノクロの地面に馴染んでいく。  見届けたぼくは再び柵から身を乗り出し、そして、ひと息に乗り越えた。
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