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「死ぬ気なら、怖いものなんて、ないなんて、嘘だなあ」  ぼくはくだらない事を独り言ちて、足の震えを必死で抑える。  柵を超えた向こう側、屋上のふち、あの世とこの世の境界線。それを踏み越えるには、大股で一歩。それで十分な距離。ぼくは震える足でゆっくりしゃがみ込む。恐る恐る境界線の外へ足を投げ出す形でビルの屋上のへりに腰掛ける。  プールサイドに腰掛けて、水の中へひざ下だけ放りだす形。体育館のステージのへりに腰掛けて、脚をぶらぶらさせる形。この姿勢になる機会って、意外に無いような気がして、無神経に新鮮だった。新鮮だと思う事で、無神経を装って平静を保っていた。  ぼくは今日、死ぬ。理由は、空っぽだからだ。これまで生きていてもしょうがなかったから、これからも特にそれは変わらないのだろう。  足を揺らしてみる。汚くなった白いソックスを身に着けた意志の無いつま先が、この大きな街をふんじばっているような、撫でているような、校庭の砂を蹴っている時のような。誇大で、妙な錯覚を覚えてしまうのは、やはりこれも、死の恐怖が原因か。 「怖いのは、生きたい印なんだそうな」  どっかの漫画でそんなセリフを見た。クラスでいじめられたとある女子生徒が、高所から身を放ってみようとしたところで、漫画の主人公によって説得されて、号泣しながら柵の向こう側へ帰っていく話だった。
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