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「邪魔するよ。邪魔しに来たんだもん」
彼女はそんなことを言う。ぼくはため息をついた。
面倒だ。ここで青臭そうな学生と論議を交わすつもりもない。別に死に場所にこだわっているわけじゃないし、ここは説得されたふりをして別の場所へ行こう。
「……わかったよ。お嬢さん。君とやり取りをしていたら死ぬのがばかばかしくなった。死ぬ気はないからもう君も帰りなさい。もう二十三時を過ぎている。終電を逃してしまうよ」
落ち着いて、顔も穏やかに微笑んで言った。だが、女子生徒は先ほどの圧力を全く変えない。厳しい顔でじっとぼくを見る。随分端正な顔立ちで、何となく、ぼくの好みだった。
「くだらない事を考えているでしょう」
どっちの事を言っているのかは分からないが、まあ、図星である。こんな死ぬ間際でも、ぼくは嘘の奴隷だし、ぼくは色の奴隷だ。……ご主人の多い奴隷だな、ぼくは。
「……何も考えていないよ。大丈夫、ここから去るつもりだ」
投げなりに誤魔化したぼくは、屋上のへりから投げやっていた足を引きあげ、立ち上がった。振り返り、柵を挟んで女の子の向かいに立つ。敵意が無い事を示すように、洋画のマネして肩を竦め、柵に手を置いた。
「そっちに戻るから、ちょっとそこをどいてくれないか」
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