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「人違いじゃないよ。絶対に知ってる。……ねえ、これ、外したい?」  彼女はぼくの手を柵に縛り付ける手錠を指さす。皮肉なもんだ。戒めから永遠に解放されるためにこんな所まで来たというのに、今現在、物理的に戒められてしまっているのだから。 「外したいに決まってる」 「じゃあ、チャンスを与えます。問題に答えられれば、君は晴れて自由の身です」  なおも楽しそうに、ふざけた演技混じりで言う彼女に苛立ちを感じながら、ぼくは半ばやけくそで吐き捨てる。「出題しなよ。ぼくは頭良くないし、君も終電逃すの覚悟しとけよ」と、我ながら訳の分からない憎まれ口だ。  彼女はぼくの目の前で唇を横に思いっきり引っ張って、飛び切りの笑顔を見せた。 「問題です。私は誰でしょう」 「だから、分からないって言っているだろう!」  金曜日の深い夜に、ぼくの悲鳴が響いていった。
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