41人が本棚に入れています
本棚に追加
「お誕生日おめでとう、莉々ちゃん!」
リビングのドアを開けた途端、パンパンパンと景気のいい音を立ててクラッカーが弾ける。目の前には紙テープが飛び、紙吹雪がこれでもかと言わんばかりに舞い落ちてきた。
「――――なにこれ」
莉々は自分の頭に乗ったテープを取りながら、母親を胡乱げに一瞥する。
全体的に小さくできているのに目だけは大きくて、栗色の髪はきれいに巻かれており、顔を動かすたびにくるんくるんと揺れている。ふりふりのエプロンにパステルピンクのワンピース。その被服をまとう肢体は、手足が長くほっそりしているのに胸だけやたら大きい。典型的な男好きする体形だ。
この春から大学生の子供を持つ母親にはまったく見えないどころか、成人しているかも怪しいような外見だ。莉々と歩いていても姉弟か、下手をすると莉々の外見のせいで姉妹と間違われることもある。
好みもあるだろうが、莉々は自分の母親よりも、魅力的な体型をしている女の子を見たことがない。クラスの男子が回し読みしている週刊雑誌のグラビアで見るプロの女の子でさえも、莉々の母親にはかなわないだろう。
「なにこれってことないでしょ、自分のお誕生日なのに」
甘ったるい声で話しかけながら莉々の母親――ジュリアンナは不服そうに頬を膨らませた。
「誕生日だからって、わざわざここまでしなくても……」
ダイニングのテーブルには、ご馳走の乗った皿がところせましと並べられていた。数えきれないほどの種類のカナッペ、生ハムの乗ったサラダに、鯛のカルパッチョ、具沢山のキッシュ、牛ヒレのステーキ、エビが沢山入ったラタトゥイユ。
思わずため息をつきながら、莉々は見たことのないような大きさのホールケーキに目をやった。
真っ白な生クリームの上に並べられた宝石のようにキラキラ輝くいちごを見つめる。家族は莉々と両親の三人だというのに、誰がこんなに食べられるのだろう。
「なに言ってるの。今年はただの誕生日じゃないのよ。今日から大人の仲間入りする、大事な十八歳の誕生日なのよ」
嬉しそうに話す母親とは対照的に莉々のテンションは地を這うほど低かった。
最初のコメントを投稿しよう!