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「こんなことで悩んでるなんて、莉々には知られたくない」
莉々の前では格好よくいたい。だからこそ莉々の前ではいつも気取っているのだが、いつ化けの皮が剥がれるか分かったものではない。
「とにかく、近いうちにまた顔出すか」
告白はしないにしても、こまめに顔を出して距離を縮めておくにこしたことはない。
学部は違うが、同じ大学に進学するので、授業が同じ時間なら一緒に登校することもできるだろう。そういう話をしに行くのでもいい。
鷹利は莉々に会いに行く理由を考えはじめた。
ところが、行動に移す前に鷹利のもとへチャンスが舞い降りてきた。
(あれ、莉々だ)
友達と遊んだ帰り道、自分の数十メートル前を莉々が歩いていた。あまり外へ出歩かない莉々を見かけるのは珍しい。
声をかけようかと後ろから観察していると、莉々の様子がおかしいことに気がついた。
(なんか、よたよた歩いてないか?)
元よりきびきび歩くタイプではないが、それにしても足取りが怪しい。身体も左右に揺れている。鷹利は気になって小走りで近づくと莉々に声をかけた。
「莉々」
「……鷹利」
覗き込んだ顔はいつもより赤くなっていた。瞳もこころなしか潤んでいる。あきらかに体調が悪そうだ。
「風邪でもひいたのか?」
「なんでもない」
莉々が弱々しく首を横にふる。
「なんでもないってわけないだろ、そんなふらついて。調子悪いなら外をうろつくな」
「好きで出かけてるわけじゃない」
不服そうに莉々は頬を膨らませて見上げてくる。涙がこぼれそうなほど潤んだ瞳は、どうみても風邪を引いているようにしか見えない。
「じゃあなんで」
うろついてるんだ、という鷹利の言葉は莉々によって奪われた。
「あっ……」
立っているのも辛いのか鷹利の胸に倒れてくる。ふわりと甘くていいにおいが鼻孔をくすぐる。
(えええええ――ッ!)
内心絶叫しながら、鷹利は莉々の身体を支える。本人は強がっているがこれはかなりヤバいのではないだろうか。
「家まで送る」
抱き上げたいのを我慢して、肩を支えて歩く。莉々の足取りが不安なのでゆっくりだ。
「家じゃなくて、鷹利の家に行きたい」
(なんで)
行き先はほぼ同じだ。鷹利の家に行くくらいなら早く家に帰って休んだ方がいいだろう。しかし莉々は頑なだった。鷹利の家に行くと言って聞かない。
「別にいいけど、うちついたら横になって休めよ」
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