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「それは、そうなんだけど……」
大人の仲間入り。
その事実がそもそも気乗りしないのだ。それなのに、こんな盛大に祝われたら余計に気持ちが重くなる。
「莉々ちゃんは今日から一人前の淫魔になるんだから。もっと自覚を持ってもらわないと生きていけないわよ?」
淫魔。
そう、莉々は淫魔なのだ。
信じたくはないが事実なのだから仕方ない。
莉々は人間である父親と淫魔である母親から生まれたハーフだ。母であるジュリアンナの常識外の外見は、淫魔であることに由来する。
もっとも、淫魔の子は人間との間にしか生まれてこないのでハーフと言うには語弊がある。どちらか一方が淫魔である場合、子供は確実に淫魔の能力と体質をそのまま引き継ぐので、身体は人間と淫魔の特徴を半分ずつ引き継ぐのではなく正真正銘の淫魔になるのだ。最初から人間になるという選択肢はない。
しかし淫魔の子は十八歳の誕生日を迎えるまでは体質的にも能力的にも人間と大差ない。身体が淫魔になるのは十八歳になってからで、だからこそジュリアンナが大切な誕生日と言っているのだ。
「莉々ちゃん、そろそろパパも帰ってくるわ。それに……」
「莉々」
涼し気な声が割り込んできた。
「ルイ」
両手で抱えるほどの立派な赤い薔薇の花束を持って、ルイが迷いなくリビングに入ってきた。
「お誕生日おめでとう」
花束ごと抱きしめられて頬にキスを落とされる。ルイの髪が首筋にかかった。くすぐったさに莉々は首をすくめる。ルイは昔から莉々に対してスキンシップ過多だ。
「ありがとう」
人形のように整った顔を見上げる。作りものめいた美しさは、この世のものとは思えない。ルイの外見は、ジュリアンナとはまた違った美しさを誇っていて、見ているだけで夢見心地になる。人外なのでこの世のものではないことに間違いはないのだが。
「相変わらず可愛いね」
ふふっとからかうような笑みは、計算されたものではなく生まれ持った癖のようなものだ。莉々のように慣れていなければ、どんな人間でも真っ赤に顔を染めるだろう。
ルイは莉々にとって母方の従兄弟であり、彼もまた莉々やジュリアンナと同じく淫魔なのであった。
貰った花束を抱きしめたままルイと並んでソファーに座る。
(すごい花束……いくらしたんだろう)
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