牛乳パックとハサミとレトロゲー

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とある街の高校で、一日の授業が終わり、放課後を告げるチャイムが鳴り響く。 「さて、掃除終わり。と」 中肉中背、整った髪型にどこか緩んだ表情の男子生徒、こと前原冬樹は放課後の教室掃き掃除が終わって、箒を掃除ロッカーに片付ける。 既に教室からは少しずつ生徒が各々部活や下校などの目的で下駄箱へ向かっているだろう中で冬樹は、帰るでもなく反対の屋上へと向かって階段を上がっていく。 「あ、やっぱりいた」 「……」 屋上の扉を開けると、金網にもたれかかりながら手元のゲームに夢中になっているクラスメイトの少女、奥田千夏がいた。 「おう。千夏ちゃん、今日はなに? ファミスタ? ゼビウス?」   「ドラクエ1」 ヘッドホンをしているせいで最初気づかなかったが、触れるくらい近くまで接近するとヘッドホンを外すものの、ゲーム画面からは片時も目を離すことはなかった。 「最初レトロゲー凝ってるね」 膝丈程まで伸びた長い栗色の髪をお腹で纏めて、まるで膝掛けみたいになっており、脱ぎっぱなしされた上履きがそこらで転がっており靴下も履いてない冬樹曰くこれは彼女のリラックス状態だ。 「中々いいものよ」 彼女は冬樹より頭一個分は小さく制服を着てなければ高校生に見えないくらい、目付きは少し悪いがふわっとした猫のように涼しげな雰囲気を持っている。 「っし! クリア!」 ゲーム機を両手で掲げながら、仰向けに倒れる。 「そりゃレベルこれだけバカ上げしてりゃ勝てるでしょ」 部分的にでも見ていた冬樹は、明らかに千夏がオーバーキルしているのはすぐわかった。 例えるならニビジムにカメックスを持ち込むがごとき、レッドリボン軍を壊滅させるのにスーパーサイヤ人になってるような、小学生しかいない少年野球チームにメジャーリーガー選抜チームが相手してるようなものだ。 「圧倒的物量で押すのが楽しいんじゃない」 彼女は中々涼しい顔して言う。 「レベル上げみたいな地道な作業めっちゃ好きだし」
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