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「家ってさお風呂だけこんな大きいのが利点だよね」
二人どころか、四人が入って足伸ばせるくらいのスペースがある。
「まぁ、結構広い家だし。余生を海外で過ごすって飛び出て残ったお爺ちゃんの家だし。いい家だよね」
「二人で使うにはちょっと広すぎるよな……ここへ高校通学のために上京するって決めたときからずっと思ってたけど」
「まーね」
それはさておきと、響は早速浴槽へ足を伸ばす。
足先から少し浸しただけで、最初は少しヒンヤリと冷たい感覚があったが次第に慣れ、遂には膝まで浸かる。
「お……お、ちょうどいい。気持ちいい」
20度前後のプールが大体こんな感じだったろうか、あと塩素の匂いでもすれば完璧ではないだろうかと言う段階まで来ていた。
「どうよ? どうよ?」
「最高……心、お前天才」
「恐れ入ったか」
すると、心はいきなり手を組んで響の手元に水を飛ばす。
「……わぷっ!」
「へへっ」
「このやろう」
響も反撃と水を飛ばすが、今度は心の背後から巨大な水鉄砲が出てきた。
「水鉄砲、ドンキで買った最新型!」
「わぷっ……おい!」
空気を延々と送り込んで、響に息ができないほど何度も執拗に顔面にかけてくる。
「おい、やめ……」
しかし調子に乗った心は歯止めが効かず響に飛ばす。
「あ、やべ……」
やがて、勝手に水切れを起こしてしまう。
「形勢逆転」
響はお風呂洗い用のホースを心に向ける。
こうなるとさっきまでの暴れぶりが嘘のような、このまな板の鯉。
「いいよ。好きに撃ってくれて」
そうは言いつつ、ホースの照準から逃げるようにビビっている。
「本当に撃つからな!」
散々メチャクチャに暴れられて響の堪忍袋の緒はとうに切れている。しかし、響がホースを持つ手はワナワナと震えている。
例えるなら、洗脳の一部だけ溶けたヒロインがもう私は戻れない。完全に自我がなくなる前に貴方の手で終わらせてと言われた主人公くらい震えている。
「…………っ!」
「出来るわけないだろ!」
響はホースを投げ捨てる。
「本当に響は優しいね」
優しすぎて損するタイプの人間であろうが、それが性分だから仕方ないと本人も半ば諦めたような様子だ。
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